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探し物 NO1

晴美と別れて一年が過ぎていた。

僕は、朋子 晴美、大切な人を次々と失ってしまった。
失って初めて気がついた。
僕にとって、2人の存在がいかに大きかったのかを。

僕は、晴美と別れた後、空手道場をやめた。
それも、きちんとやめたのではない。
ただ、行かなくなってしまった。
行く気がまったくしなくなってしまった。

僕は、この高校2年の、一年を無益に過ごし、高校3年になっていた。
自分の居場所をまったく見つけることが出来なかった。
家も学校も、居心地が悪く、そこに有るのはダラダラとした、何の価値の無い日常だけが存在しているようだった。
友達との、アイドルやファッションや先生の悪口といった会話でさえも、僕は、そこになんの面白みも見出すことが出来なかった。

僕は、益々、自分の居場所を小説の中に求めていた。
読書量は、以前にも増して増え、部屋に積まれた文庫本の数だけ月日が流れていった。

このころ、僕にとって唯一の安らげる場所は、喫茶店だった。
僕は、休みになると、ジーパンの後ろのポケットに、文庫本を1冊忍ばせて繁華街の裏通りにある、落ち着いた喫茶店のカウンターで、何時間も本を読み、タバコを吸った。

「読書、好きですね。」ある日、カウンター越しにウエイトレスの女性が声を掛けてきた。
僕は、読みかけの本を閉じて彼女を見た。
彼女は、僕と目が合うと小さく微笑んだ。
朋子とも晴美とも違う、大人の女性の微笑だった。
黒く長い髪と、色白の細面の顔立ち。
「なんとなく。」僕は、少しどぎまぎした気持ちを悟られないように、そっけなく答えた。
「なんとなく、好きなだけで、毎週のように何時間も本を読むの?」
僕は、何て答えていいのかわからなかった。
会話の続きの言葉を捜したけれど、何も思い浮かばなかった。
彼女は、僕の顔を見るともう一度微笑んだ。
「高校生でしょ。」彼女は言った。
「3年です。」
「受験勉強で大変の時期じゃないの?」
「迷っている。」
「何を?」
「受験しようか。どうしようか。」
「大学に行きなさい。
 私なんて、高卒だから、今になって後悔しているもの。
 行けるのなら、大学に行きなさい。
 もし、迷うのなら、大学に行ってから迷いなさい。」

つづく

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探し物NO2

僕は、相変わらず、日曜日になると、喫茶店に通い続けた。
カウンターで本を読み、喫茶店の彼女とカウンター越しに軽い会話を繰り返していた。
僕は、そのどちらの時間も好きだった。
喫茶店のカウンターが、僕にとって、誰にも教えない秘密基地のような気がした。

高校3年の春から夏にかけて、僕は、喫茶店のカウンターでぼんやりと時間を浪費するように過ごしていた。

7月も後半になると、高校は、夏休みに入った。
クラスの中の話題は、アイドルから、夏休みに通う予備校と大学受験の話に切り替わっていた。
僕は、相変わらず、自分の進路を決めることが出来なかった。

僕は、いったい、何になりたいのだろうか?
働く自分も、大学に通う自分も、まったく想像することが出来なかった。
自分の将来に、まったく実感が持てずに、僕は、喫茶店のカウンターの椅子に逃げ込んでいた。

僕は、高校3年の夏休みに、図書館に通うと親に嘘を言って、家から私鉄の特急で20分も離れた牛丼屋で、週に3回バイトを始めた。

8月に入ると、街は、祭りの準備を始めていた。
提灯が街路樹と街路樹を結ぶようにぶら下がり、祭囃子の練習の音は、気合が入ったようだった。

あれから一年が過ぎた。
僕の声が朋子に届かず、晴美の心が僕に届かなかった。
あの祭りから一年が経っていた。
思い出すと、僕の心は、締め付けられるように痛んだ。
僕は、その痛みを堪える。
嵐が通り過ぎるのを待つようにぐっと堪える。

つづく

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仕事は人間関係はとても大事なんですが、結構人と接する方が苦手な方が多いと最近よく耳にします。
こちらのサイトの商品は、自分を成長させるのは人と接すること、会話をすることを教えてくれるものですので紹介してみればきっといい結果の結びつくと思います。



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ジャンル : 小説・文学

探し物NO3


祭りの人ごみの中で、気がつくと朋子の姿を探していた。
朋子と似た後姿の女性を見かけると、人ごみを掻き分けるように急ぎ足になり、追い越しざまに女性の顔を確認する。

どれも違っていた。

偶然が毎年続く訳がないことぐらい分かっていた。
分かっていても、朋子の影を探していた。
結局、朋子に会うことも無く、何時もの喫茶店にたどり着いた。

何時もの時間が始まる。
本を読み、時折、カウンター越しに喫茶店の彼女と話をする。

「今日も、一人なの?」彼女が言う。
「いつも一人だよ。」
「友達は?」
「めんどくさい。」
「寂しくない?」
「慣れているから。」
「寂しさに?」
「一人でいることに。」
「慣れるんだ。」
「一人でいても、誰かと一緒にいても、何だか寂しさを感じる。」
「だから一人でいる?」
「同じ寂しいなら、一人の方が楽。」
「若いのに、大人びているわね。」彼女は、そういうと微笑んだ。
「早く大人に成りたい。」
「大人になんてなったって、いいことなんか無いわよ。
 あなたは、あなたの年齢でしか出来ないことをするべきじゃないかしら。」
「例えば?」
「もっと勉強をするとか。」
「教科書から学ぶことよりも、小説から学ぶことの方が多いと思う。」
「私は、どちらも読まなかったわ。
 だから、何も学んでいないのかな。」
僕は、なんと答えていいのか分からなかった。
答えに詰まった。

僕の背中越しに、ドアが開く音が聞こえカウベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。」澄ました声で彼女が言った。

僕は、背後を振り返る。
見知らぬカップルが、喫茶店に入って来た。

彼女が、また、働き始めた。

お冷とお絞りを運び、注文を聞き、コーヒーを作り始める。
僕は、彼女の動作をぼんやりと眺めていた。

『大人になんてなったって、いいことなんか無いわよ。』
彼女の声が、僕の心を何故か捉えている。

いいことってなんだろうか?
僕にとっていいことって何なんだろうか?
大人にならなくったって、いいことなんて有ったのだろうか?

一組のカップルが、入って来ると、立て続けに、お客が増えた。
彼女は、忙しそうにフロアとカウンターの中を行ったり来たりした。
僕は、取り残されたような気持ちになった。

本を読もうとしたけれど、本に集中を出来なかった。
本の中の活字は、意味のある言葉として、頭の中に入って来なかった。
僕は、本を閉じると、暫く彼女の動作を眺めていた。

彼女が、コーヒーを淹れる動作に、大人の女性を感じた。

何だか、急に落ち着かない感じになり、僕は、伝票を持って立ち上がった。
彼女は、僕に気がつくと、慌てたようにレジまで小走りにやってきた。
小さなメモ帳に、慌てて何かを書くと、お釣りと一緒に僕に渡してきた。

店を出ると、小銭をジーパンのポケットに仕舞い、手渡されたメモを見た。

”18時 横須賀中央駅改札” それだけが、走り書きされていた。

つづく

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プロフィール

さとうそら

Author:さとうそら
2009年12月に、本を出版しました。
タイトル「春には春の花が咲く

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