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春と修羅NO1

僕は、一週間という時間を朋子とのデートのことだけを考えて過ごした。
本を読んでいても、音楽を聴いていても、食事のときも、風呂に入っているときも、トイレの中でさえ、朋子とのデートのことを考えていた。
いったい、何処に行けばいいのだろうか?
どんな、会話をしたらいいのだろうか?
僕は、頭の中で朋子と二人で歩く姿を想像した。
想像の中では、僕と朋子は、手を繋いで歩いていた。
それを想像すると、僕の胸はきつく締め付けられた。
胸に感じる切ない痛みは、何処か甘さを含んでいた。
早く、朋子に会いたい。
早く会いたい。
会いたい。
僕が、思っていることは、それだけだった。
そんなことばかり考えていた。

木曜日の夜に、道場で朋子に会った。
僕が、道場に入ると朋子は既に道着に着替えていて一人で型の練習をしていた。
朋子は、僕を特に意識する風もなく、一人、黙々と型の練習をしていた。
僕は、そんな朋子を見ていると、なんだか、不安な気持ちで一杯になった。
まるで、僕なんか眼中にないような感じだった。
僕は、朋子を意識しすぎて、気が付くと朋子を目で追っていた。
朋子は、そういった僕の視線を無視したように、僕の方を振り向くことさえなかった。

日曜日の約束を忘れているのだろうか?
それとも、朋子にとって、僕とのデートというのは、ただ友達と遊びに行くのと同じなのだろうか?
はしゃいでいるのは、僕、一人なのだろうか?

僕は、朋子に声を掛けたかった。
何でも良いから話をしたかった。
でも、声を掛けることが出来なかった。
僕は、その日、練習にまったく身が入らなかった。
朋子のことが、気になって、気になって仕方がなかった。
その日、朋子は、いつもより早く一人練習を終えた。
私服に着替え帰ろうとする朋子のことが気になった。
何故か、そんな何でも無いことが、気になった。
いったい、何故、早く帰るのだろうか?
僕と、一緒にいることが嫌なのだろうか?
それとも、誰か、他の男性とこれから会うのだろうか?

どんな男性と会うのだろう?
その男性とは、どんな関係なんだろう?
もちろん、男性と会うかどうかさえ分からないのに、僕の想像は、勝手に膨らんでいく。
朋子は、道場を出るときに、一瞬、僕を見た。
僕と目が合うと、朋子は口元だけで微笑んだ。
誰にも気付かれないように微笑んだ。
その微笑みは、本当に一瞬だったけど、僕の心は急に浮かれた。
僕にだけ、微笑んでくれた。
それが、嬉しくて。
そんなことが、嬉しくて。
僕は、緩みそうになる口元を、固く閉じた。
僕の感情は、朋子のちょっとした仕草や動作で、浮かれたり沈んだりした。
そんな自分に戸惑った。

つづく

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春と修羅NO2

その日の帰り。
僕は、駅前の本屋に行った。
本屋に入ると、閉店をお知らせする、蛍の光が流れていた。
店屋で蛍の光が流れると、無意識にソワソワとして帰りたくなるのは、不思議なものだと思った。
買う本は決まっていた。
宮沢賢治の”銀河鉄道の夜”を買った。
ついでに、何気なく、隣にあった宮沢賢治の”春と修羅”という詩集を買った。
タイトルのインパクトに僕は引かれた。

家に帰ると、両親は既に夕食を終えていた。
僕は、一人で夕食を食べ、風呂に入り自分の部屋に篭った。
”春と修羅”のページを捲った。
僕は、詩集を読むのは初めてだった。
言葉の持つ力に、僕は圧倒された。

宮沢賢治の詩の中に、妹の死について書かれた部分があった。
大正という時代に書かれた文章だから、とても読みにくかった。
それでも、僕は、その詩を何度も読み直した。
読み直すたびに、言葉が心に染みてくる。

僕は、ノートを取り出し、その詩を分かりやすく書き直した。

今朝のうちに
遠くへ行ってしまう、私の妹よ
ミゾレが降って、表は変に明るいのだ
 (雨雪を取ってきてちょうだい)
薄明るくいっそう陰惨〔いんさん〕な雲から
ミゾレはびちょびちょと降ってくる
 (雨雪を取ってきてちょうだい)
青い蓴菜〔じゅんさい〕模様の付いた
これら二つの陶椀〔たうわん〕に
お前が食べる雨雪を取ろうとして
私は、曲がった鉄砲玉のように
この暗いミゾレの中に飛び出した
 (雨雪を取ってきてちょうだい)
蒼鉛〔さうえん〕いろの暗い雲から
ミゾレは、びちょびちょ沈んでくる
ああ、とし子
死ぬという、今頃になって
私を、一層明るくするために
こんな、さっぱりとした雪のひとわんを
お前は、私に頼んだのだ
私も、真っ直ぐ進んで行くから
 (雨雪を取ってきてちょうだい)
激しい激しい、熱や喘ぎの間から
お前は、私に頼んだのだ
 銀河や太陽、気圏などと呼ばれた世界の
空から落ちた雪の最後のひとわんを・・・・
・・・二切れの、みかげせきざいに
ミゾレは、寂しく溜まっている
私は、その上に危なく立ち
雪と水との真っ白な二相系〔にさうけい〕を保ち
透き通る、冷たい雫にみちた
このつややかな松の枝から
私の、優しい妹の
最後の食べ物を貰っていこう
私たちが、一緒に育ってきた間
見慣れた茶碗の、この藍の模様にも
もう、今朝別れてしまう
 (私は 私で 一人 いく)
本当に、今朝お前は別れてしまう
ああ、あの閉ざされた病室の
暗い屏風や蚊帳の中に
やさしく、青白く燃えている
私の健気な妹よ
この雪は、何処を選ぼうにも
あまりにも、何処も真っ白なのだ
あんな恐ろしい乱れた空から
この美しい雪が来たのだ
  (生まれて来るなら
   今度は、こんなに悪いことばかりで
   苦しまないように生まれてくる)
お前が食べる、このふたわんの雪に
私は、今、心から祈る
どうかこれが天上のアイスクリームになって
お前と皆とにに聖い資糧をもたらすように
私の、全ての幸せをかけて願う

僕は、書きながら涙を流した。
最後の文字が、涙で滲んだ。
心の中に、たまらい痛みが走る。
苦しくて。
苦しくて。
心が押しつぶされてしまいそうだった。
僕は、目を閉じ、その苦しみにじっと耐えた。
叫び出しそうになる心を、歯を食いしばり、じっと耐えた。

私の、全ての幸せをかけて願う
僕は、僕の全ての幸せをかけて願う
全ての幸せ
全ての幸せ
全ての幸せっていったなんだ?
幸せっていったなんだ?

本当の幸せっていったなんだ?

朋子と並んで海を見ていたとき
僕は、幸せを感じていたような気がした。
でも、今、それを思うと、それは喜びであって、幸せでは無い気がした。
僕の中の、何処にも答えは無かった。
僕は、声を出さずに唇だけを動かす。
「瑞希。」と。
「僕は、どうやって生きていけばいいんだ。」
窓を開けると、凍えた風が部屋の中に吹き込んできた。
そして、タバコに火をつけた。
外に向かって煙を吐き出すと、冬の星座が、寒空に瞬いているのが見えた。

つづく

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春と修羅NO3

僕が、喫茶店に着いたのは、9時30分を少し過ぎた時刻だった。
約束の時間よりも、30分早く到着した。
家に居てもそわそわと落ち着かなく、約束の時間よりも早く喫茶店に向かった。
店内には、先日と同じようにクラッシクの曲が静かに流れていたが、先日と曲調は違っていた。
僕には、その曲が誰の何ていう曲かは分からない。
店内を見回すが、朋子は、まだ、来ていなかった。
僕は、先日と同じ窓際のテーブルに座り、同じようにコーヒーを注文した。
やがて運ばれてきた、コーヒーをブラックで飲みながら、窓の外を眺めた。
窓の外を眺めていても、僕の心は落ち着かなかった。
何かを考えるにも、何も思い浮かばず、窓の外を歩く人の中から朋子を探していた。
僕は、自分を落ち着かせるために、タバコに火をつけた。
こま鼠のように、タバコを吸う動きが気ぜわしくなっていった。
僕は、意識して、煙を深く吸い込む。
それでも、落ち着かない。
壁に掛けられていた時計と、窓の外を交互に眺めていた。
時間が進まない。
1分が10秒が長く感じられた。
朋子は、10時ぴったりに現れた。
初詣の時と同じ、赤い手袋を脱ぎながら、僕に近づいて来た。
コートを脱ぎながら、僕の前に座ると、灰皿に目をやった。
「タバコを吸うの?」
「時々。」
「高校一年よね。」
「まだね。」
「いけないんだ。」
「法律的に?それとも健康的に?」
「両方よ。」
「わかってる。」
僕は、もう一本、タバコに火をつけた。
「変わってるわね。」朋子は、笑いながら言った。
「自分では、わからない。」
「なんだか、大人と子供が同居しているみたい。」
朋子は、そういうと、気が付いたように手袋を鞄の中に仕舞い紅茶を注文した。
やがて、運ばれてきた紅茶を一口飲むと、「何処に、連れて行ってくれるの?」と言った。
僕は、そのことをずっと考えていて、答えが出なかった。

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春と修羅NO4

女の子と、初めてのデートのとき、何処に行ったらいいのか分からなかった。
朋子に”何処に、連れて行ってくれるの?”問いか掛けられて、決めてないとは答えられなかった。
「行きたい所ある?」と僕は言った。
「優一君にお任せするわ。」
なんだか、僕は、朋子に試されているような気がした。
つまらない所に連れて行ったら、二度とデートをしてあげないと、言われているようだった。
でも、僕は、気の利いたお洒落な場所など知らなかった。
僕は、まるで、自分の中にデートに行く場所の候補がいくつもあって、どれにしようか悩む振りをした。
そして、決まったルーレットの数字を読み上げるディーラーのように、「横浜。」と言った。
「お洒落な場所に、連れて行ってくれるのね。」朋子が言った。
でも、結局、僕達が行ったのは、無料で入れる横浜の野毛山動物園だった。
お洒落な場所とはいいがたかった。

僕達は、喫茶店を出ると、切符を買い赤い私鉄電車に乗った。
切符を買うとき、朋子の分と合わせて2枚買い、二人分の代金を払った。
朋子に切符を渡すとき、朋子の指が僕の指に触れた。
「ありがとう。」と言った、朋子の言葉と、触れた指先の感触。
僕が、朋子に”ありがとう”と言いたかった。
朋子は、切符を受け取ると、鞄からお財布を出して、切符の代金を僕にくれた。
男として、これを受け取っていいのかと迷いながら、素直に受け取ってしまった。

電車は比較的空いて、並んでシートに座った。
「動物園なんて久しぶりだな。
 小学校の遠足以来かも。」と朋子が言った。
「俺も。」そう答えながら、自分の中に何かが引っかかった。
忘れてはいけない何かが、僕の心を少しかき乱していた。
それが、何かが分からなかった。
何かを思い出そうとして、思い出せなかった。
「遠い目をしている。」朋子が言った。
「優一君は、時々、遠い目をする。」
自分では、気が付かなかった。
でも、自分の中で思い当たることがあった。
「そうかな?」
「そうよ。
 何を見ているの?」
「心象スケッチ。」と僕は、宮沢賢治の詩の一節を言った。
「宮沢賢治。」
「うん。」
「読んでくれたのね。」
朋子の顔が、とても嬉しそうだった。
朋子の笑顔一つで、僕の心は浮かれた。

つづく

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春と修羅NO5

一月にしては、暖かな日差し僕たちを包んでいた。
駅から動物園に向かう、急な坂道を並んで歩いていた。
道の両側に立ち並ぶ桜の樹は、まだ、蕾も付けてはいなかった。
「春に来たら、素敵な場所ね。」朋子が桜の樹を見ながら言った。

朋子の言葉で、心の奥底に閉じ込めた、思い出が湧き上がって来た。
この場所に、最後に来たのは、春だったんだ。
坂道の両側に、満開の春の花が咲いていた。
時折吹く、春の風に桜の花びらが舞い、舗道を桜色に染めていた。
あの日、僕たちは、4人で来たんだ。
父親と母親と瑞希と僕の4人で来たんだ。
僕が、何歳の時だんだろう?
確か、瑞希は、幼稚園の年少か年中組だった。
僕は、小学校の3年か4年だったと思う。
思い出した。
思い出したよ。
僕たち家族は、世間並みの幸せの中にいたんだ。
そうだ、あの場所だ。
あの桜の木の下だ。
その場所で、僕達はお弁当を食べたんだ。
桜の花びらが舞う中で、お弁当を食べたんだ。
瑞希は、桜の花びらを追いかけるように走っていた。
僕は、宙に舞う花びらを掴んだ。
瑞希の前で、そっと手のひらを開いた。
僕の手のひらに、一枚の小さな花弁が乗っていた。
瑞希が、それを掴もうとする。
小さな指が、僕の手のひらに近づく。
突然の風に、花びらは青空に舞い上がった。
瑞希は、掴み損ねた手を振りながら「お花さん、バイバイ。」と言った。
あの場所に戻りたい。
もう一度、あの場所に戻りたい。
ふっと、そう思った。
でも、もう二度と戻れない。
僕達の人生は、片道切符の銀河鉄道に乗っているようだと思った。
”私の、全ての幸せをかけて願う”
ふと、宮沢賢治の言葉が心に浮かんだ。

僕は、自分の思いを朋子に悟られないように、「きっと、桜が満開だよ。」と言った。
「そうね。」と言って、朋子が黙った。
何かを考えながら歩いているようだった。
そして、僕も黙った。
何を言っていいのか分からなかった。
「さっきも、また、遠くを見ていたわ。
 いったい、優一君は、何を抱えているの?」朋子が言った。
僕は、瑞希の事を話そうか迷った。
でも、そのことを上手く朋子に伝えられる自信がなかった。
何をどう話していいのか、言葉が浮かんでこなかった。
僕は、黙った。

突然、北風が吹き、僕たちを通り抜けていった。
動物園の入り口に着いていた。

つづく

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さとうそら

Author:さとうそら
2009年12月に、本を出版しました。
タイトル「春には春の花が咲く

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