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寒椿NO1

その後、朋子とは、二人で話をする機会もなく、朋子は道場を辞めていった。
僕は、最後に朋子に何かを話し掛けることも出来なかった。
朋子が、皆に挨拶をしている姿を離れた所から見ているだけだった。
何かを話し掛けたかったけれども、言葉が何も浮かんでこなかった。
意識だけが、朋子に向かっていた。
でも、僕は、意識と裏腹の態度で山崎と話をしていた。
朋子が、道場を出るときに、道場の奥にいた僕と、ほんの一瞬、目が合った。
僕には、朋子の顔が少し寂しそうに微笑んだように見えた。
でも、その笑顔は、直ぐに消えた。
あの、微笑が何を意味していたのか僕には分からなかった。
僕に何かを伝えたかったのか?
それとも、ただ微笑んだだけだったのか?
僕に、その疑問を残したまま、僕と朋子の接点は無くなってしまった。
僕の心は、朋子の微笑で複雑に乱れた。
その乱れた心を、どう扱っていいのかわからずに、胸の中に仕舞いこんだ。

家に帰ると、朋子が好きだと言っていた、宮沢賢治の銀河鉄道の夜を読んだ。
読んでいても、何も頭の中には入って来なかった。
ただ、文章を目で追っているだけだった。
文字を追っても、僕の心は苦しさのようなものや、切なさのようなもので締め付けられた。
その度に僕は本から目を逸らし、窓の外を見つめ、天井を見つめ、白い壁を見つめ、気がつくと意味も無くタバコに火をつけていた。
灰皿には、5本の吸殻が乱雑にもみ消されていた。
僕は、本を読むのを諦めて閉じると、窓を開けて空気を入れ替えた。
冷たく鋭利のような空気が部屋の中に入り込んできた。
凍えた空気は、頬を切り裂くように部屋に入り込み、何故か、その痛みが心地よかった。
外の闇に目を凝らすと、街灯に照らされて、白い雪がちらちらと舞っていた。
 (雨雪を取ってきてちょうだい)
春と修羅の一節を思い出した。
零れそうになる涙を、深く、深く、心の闇の中に仕舞いこんだ。

「優一。電話だよ。」母親の声が聞こえた。
「誰から?」
「長谷川さんって女性よ。」
長谷川さんって言う女性が、誰だか分からなかった。

つづく

↓12月1日発売
春には春の花が咲く -約束のない 愛だから 信じていたい-


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寒椿NO2

「もしもし。」僕は、訝しげに電話に出た。
「もしもし。ごめんね。突然、電話しちゃって。」聞き覚えのある声だった。
「晴美?」
「そうよ。」
「長谷川って言うから、誰だか分からなかったよ。」
「ひどい!」
「いつも、晴美って呼んでいるから。」
「だって、晴美ですけど、なんて言えないじゃない。」
「そうだね。良く電話番号わかったね。」
「電話帳で調べたのよ。町名まで知っていたから。運よく町内に一人しかいなかったわよ。でも電話かける時、緊張しちゃった。違ったらどうしようって。」
晴美の声は、明るかった。
それが、少し僕の心を救ってくれた。
「どうしたの?」
「別に用事はないんだけど、落ち込んでいないかなって思って。」
「落ち込んでる?」
「朋子さん、辞めちゃったから。」
「別に落ち込んでいないよ。」
「無理しなくていいのよ。分かっているんだから。」
「分かってる?」
「優一、朋子さんのこと好きだったでしょ。
 私、そういうの直ぐ分かるんだから。」
僕は、黙った。
どう答えて良いのか迷った。
「やっぱり、当たりね。
 優一って、感情を隠しているようで、微妙に顔や態度に出るのよね。
 よーく見ていると、直ぐにわかるわよ。」
「そっか。」
僕達は、暫く当たり障りの無い雑談をした。
時計を見ると、それでも、一時間近く話をしていた。
「今度の日曜日暇?」晴美が言った。
「大体、日曜日は、空いているよ。」
「映画の券、2枚もらったんだけど、一緒に行かない?」
「俺と?」
「慰めてあげようと思って。元気がでる映画よ。
 私とじゃあ嫌?」
「別に、嫌じゃないよ。」
「別になの?」
「いいよ。」
「じゃあ、決定ね。」
「うん。」
「優一って面白いね。」
「なんで?普通の会話しかしていないと思うんだけど。」
「だって、映画のタイトルとか、聞かないじゃない。
 普通、そういうの聞くんじゃないの?」
「そっか。気が付かなかった。」
「変わってる。」晴美の笑い声が受話器から聞こえた。
「まあ、楽しみにしていなさいね。」晴美は、一方的に、そういうと電話を切った。
僕は、受話器を置くと部屋に戻った。
部屋の中は、開けたままの窓のせいで、冷え切っていた。
でも、僕の心は、ほんの少しだけど軽くなった。

つづく

出版しました。12月1日発売です。
冷え切った夫婦関係、生きがいのない空虚な毎日を送る香が知ってしまったあまりにも甘美な恋……。チャットルームで知り合った香と優一。たがいに家庭を持つ身ながら、二人の恋は燃え盛り深く結ばれる。が、突然優一との連絡が途絶えてしまう。許されざる愛の報いは、かくまでも冷酷なものなのか。約束のない愛だから信じていたい。切ない恋に生きる女の業とやさしさ、潔さそして強さを描いた小説。
春には春の花が咲く -約束のない 愛だから 信じていたい-

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寒椿NO3

晴美と映画に行く週の火曜日に、道場に行くと、既に晴美は来ていた。
晴美は、僕を見つけると、駆け寄って来て、こっそりと待ち合わせの場所と時間を僕に伝えた。
晴美のその行動は、自分自身は、こっそりのつもりだったかもしれないかったが、その態度は、あまりにも堂々としていてかなり目立った。
僕は、周囲の目を気にした。
特に、山崎の目を気にした。
案の定、山崎は、僕の方を見ていた。

その日の帰り道、山崎は、僕に近寄ってきた。
月がやけに丸く輝いている夜だった。
「さっき、晴美と何を話していたんだよ。」
山崎の口調は、少し怒っていた。
「朋子さんのことだよ。」
「朋子さん?」
「朋子さんが、辞めて残念ねって言ってきたんだよ。」
「ほんとか?」
「ほんとだよ。」
僕は、嘘をついた。
本当の事は言えなかった。
「何で、お前にそんなこと言うんだよ。」
「そんな事、俺には、わからないよ。
 晴美に直接聞いてみりゃいいじゃん。」
「聞けるかよ。そんなこと。
 大体、何て聞くんだよ?
 『さっき、優一と何を話してたの?』って聞くのかよ。
 そんなの、変だろ。
 まるで、俺が、ヤキモチ焼いているみたいじゃねえかよ。」
「焼いているだろ。」
「まあな。
 だってさあ、俺、晴美にあんな風に声掛けられたことないんだぜ。」
「朋子さんの話しただけだぜ。」
「そんな話でも、羨ましいよな。」
日曜日に、晴美と映画に行くとは完全に言えなくなっていた。
「寒いな。雪でも降るのかな?」僕は、手に息を吹きかけながら言った。
「雪なんか降るかよ。雲一つないじゃんか。」
「北海道のことだよ。」
「北海道行くのか?」
「行かないよ。」
「意味、わかんねえ。」
話を逸らすことに成功した。
そして、山崎と駅で別れた。

つづく

出版しました。12月1日発売です。
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寒椿NO4

約束の時間に、約束の場所に行くと晴美は来ていた。
いつも、ジーパン姿の晴美が、スカートをはいていた。
空は青く晴れていたけれども、木枯らしが冷たく吹いている日だった。
何故こんな寒い日に、晴美は膝よりも短いスカートをはいてきたのか不思議だった。
寒くないのだろうかと思ったが、なんとなく、聞くのをやめた。
晴美は、僕の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。

映画館の窓口で、晴美は知り合いに貰ったと言っていた映画の券を2枚出した。
僕は、映画の券を知り合いに貰ったと思っていた。
それから、何年も後になって、ある日、ふっと、本当は、その映画の券は、誰かに貰ったのではなく、実は晴美が買ったのではないかということに気がついた。
何故、その日、突然そんなことに気付いたのかはわからない。
でも、僕は、そのときに気付いたのだった。

映画は、晴美の言うとおり、コメディだった。
晴美は、映画館の中で映画を見ている誰よりもよく笑った。
横にいて、映画よりも晴美の表情を見ているほうが面白かった。
晴美は電話で、僕を慰めるためにコメディ映画を選んだと言っていたが、僕には、晴美自身が一番楽しんでいるように思えた。

映画が終わると、僕達は、喫茶店に行った。
深く座り心地のいい椅子のある、チェーン展開をしている喫茶店だった。
その店のマッチ箱には、印象派の有名な画家の女性をモチーフにした絵が描かれていた。僕達は、向かい合って座った。
店内を、静かにクラッシクの曲が流れていた。
晴美は、クラッシクになど興味がないように、映画の話をし続けていた。
いつも元気な女性だけれども、今日は、いつも以上にテンションが高い気がしていた。

喋るだけ喋ると、突然黙った。
そして、僕の顔を暫くじっと見つめた。
「別に二枚目って顔じゃあないわね。
 でも、なんか女性を安心させる顔をしているわ。」晴美が言った。
「それは、喜んでいいのかな?」
「ほめてるわよ。」そして、また、僕の顔を見た。
「いま、すっごい嬉しそうな顔したわよ。面白い。」
「からかわれているみたいだ。」
「楽しんでいるだけよ。」

「何だか、この椅子、気持ちいい。このまま寝ちゃいそう。」
晴美は、そういうと、大きく伸びをすると、スカートから、白い太ももが半分ほど見えた。
僕は、なんだか少し恥ずかしく、少し興奮をした。
それを悟られないように、コーヒーを一口飲んだ。
その後、晴美の話は、耳に入らなかった。

つづく

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寒椿NO5

その日、晴美は喫茶店を出て駅まで歩き改札で別れた。
「少しは、元気になった?」晴美が言った。
「元気だよ。」僕は、笑いながら言った。
「無理しなくていいのよ。
 辛いときは『辛い』って言っていいのよ。
 寂しいときは『寂しい』って言っていいのよ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。
 私じゃあ、朋子さんの変わりにならないかもしれないけれどね。」
「晴美は、晴美だよ。」
「認めたな!」
「えっ?」
「何も、否定しなかった。」
「何のこと?」
「朋子さんのこと好きだったんでしょ。」
僕は、何て答えようか迷った。
結局「片思い。」と短く言った。
「私と一緒。」晴美は、そういうと僕の肩に指を当て肩幅を指で測るように指を動かした。
そして、小さく頷くと、笑顔のまま走るように去っていった。
一度だけ、振り向くと小さく手を振った。
僕は、一人改札に取り残された。
晴美が、最後に何を言いたかったのかを考えた。
何が、私と一緒なのだろうか?
晴美も、朋子さんの事を好きだったのだろうか?
それは、違うと思った。
僕は、いつも大切なことに、まったく気がつかずにいた。

晴美が、短めのスカートをはいて来たこと。
自分で買った映画に券を、知人に貰ったと言ったこと。
今日、いつもより、さらに明るかったこと。
そして、「私と一緒。」と言った本当の意味。
それを、理解したのは、晴美と会わなくなって数年後のことだった。
僕が朋子に、片思いをしていたように、晴美は僕に片思いをしていたのだ。
あの日、僕が、朋子とデートをしたときと同じ思いを、この日、晴美は抱えていたのだ。
好きな人と一緒にいれる喜び。
一緒にいる人の本当の気持ちが分からない不安。
揺れ動く気持ちを抱えたまま、晴海は、僕と一緒にいたのだった。
そのことを理解したとき、初めて、今日の晴美の心に触れた気がした。
そして、晴美の抱えていた気持ちを思うと、僕の心は痛んだ。
でもどんなに心が痛んでも、全てが、もう戻らないことだった。
時間の経過とともに、痛みは僕の心の中を流れ、やがて心の底に堆積されていった。
吐き出し口が何処にも見つからなかった。

僕は、晴美のそんな気持ちも理解しないままに、その日の帰り道、朋子のことを考えていた。
空は、暗くなり、空気は更に冷えていった。
朋子の赤い手袋を思い出していた。

家に着き夕食を食べ終えたとき、朋子から電話が掛かってきた。

つづく

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さとうそら

Author:さとうそら
2009年12月に、本を出版しました。
タイトル「春には春の花が咲く

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