「でも、寒いわね。」朋子が言った。
「冬だから。」
「優一君の好きな場所は?」
僕の好きな場所は何処だろう?
僕は、いったい何に安らぎを感じるのだろうか?
「わからない。」僕は言った。
本当は、”今、二人でこうしている場所”と言いたかったけれど言うのを止めた。
「わからないの?」朋子が不思議そうに聞いてきた。
「さっきまで、分かっていた気がする。」
「でも、今、分からなくなったの?」
「今は、わからないことだらけ。」僕は笑った。
「そうね。生きるって、そんなものなのかもね。」
「いつか、わかりたい。」
「そういう日が、来るといいね。」
「うん。」
「私、宮沢賢治が好きなの。なんとなく恥ずかしくって誰にも言ったことないけど、
”銀河鉄道の夜”が特に好き。」
「読んだこと無いよ。」
「親友がね、川で溺れたクラスのいじめっ子を助けるために川に飛び込むの。」
「うん。」
「いじめっ子は、助かったけど、親友は死んでしまう。
その親友と、銀河鉄道に乗って宇宙を旅するの。
途中で、いろんな人に出会って、みんな途中で降りていくの。
最後に二人きりになって、でも、主人公は最後まで親友と一緒に行くことができないの。」
朋子は、物語を思い出すように、ぽつりぽつりと話をした。
僕は、それを、黙って聞いていた。
「私、ダメね。
全然、上手く説明できない。
子供の頃から、感想文書くの苦手だったからな。」朋子は、そういうと小さく笑った。
「今度、読むよ。」
「そうして。」
辺りが、少しづつ暗くなっていった。
吐く息の白さが濃くなっていった。
「寒くないの?」手袋をしていない、僕の手を見て朋子が言った。
「少し寒い。」僕は、指先を動かしながら言った。
「少しなんだ。」朋子が、また、笑った。
「すこし。」僕は、短く答えた。
凍えた風が、二人を通り過ぎていった。
「歩く?」僕が、言った。
「そうしよ。」朋子はそう言うと、立ち上がった。
海に向かって大きく伸びをした。
今しかない。
今言わないと。
僕は、ありったけの勇気を振り絞った。
「ねえ。」
「なあに?」
「今度の日曜日。」僕は、言葉を切った。
次の言葉を捜した。
「今度の日曜日?」朋子は僕の言葉を繰り返した。
「一緒に遊びに行きたい。」
僕は、そう言うのが精一杯で、朋子の顔が見れなかった。
海を見ていた。
朋子は、黙っていた。
僕の心は、不安で一杯になる。
朋子は、何も言わずに歩き出した。
僕は、どうしていいのかわからずに、朋子の後ろを歩いた。
つづく
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学