プールの脇に出ていた屋台でカキ氷を食べた。
屋台の横にある縁台に並んで座って、僕がメロン味で、晴美がイチゴ味のカキ氷を食べた。
海からの風が、そよそよと吹いていた。
入道雲が、海から湧き上がるように空に浮かんでいた。
大きな鳥が一羽、空に円を描くように飛んでいた。
「ねえ。」晴美が言った。
「なあに?」
「さっき、びっくりしちゃった。」
「なにが?」僕は、晴美が何を言いたいのか想像ついたが、照れくさくとぼけた。
晴美は、僕の股間を一瞬見ると「大きかった。」と耳打ちするように小声で言った。
「ばれた?」
「うん。お腹に、硬いの当たったよ。」
「そっか。」
「あんなに、なっちゃうの?」
また、晴美は僕の股間をチラッと見た。
その度に、晴美の声は小声になった。
「なっちゃうよ。」
「ねえ。」
「なあに?」
「私と、エッチしたい?」
「したくないと言ったら嘘になるかな。」
晴美は、何かを考えるように黙った。
そして、何かを決めたように言った。
「ほんとうに、優一が、私のことを愛しているなら、 いいよ。」
僕には、晴美の言葉が、自分の大切なものを、本当はあげたくないんだけれど、好きな人が望むなら好きな人に捧げる。
そんな風に聞こえた。
僕のその理解は、大きく間違っては無いけれど、けっして正しくもなかった。
本当はあげたくないのではなく、本当はあげたいのだけれど、私だけを欲しがっているのか貴方の心が分からないのだった。
僕は、女性が男性に抱かれる心理というものをまったく理解していなかった。
女性にも、男性と同じように性欲があるということも、その性欲は、男性と女性では違いがあることもまったく理解していなかった。
結局、僕と言う存在は、いつも自分のことしか考えていないのかもしれない。
他人のことを考えているようで、実は、自分のことばかりを考えていたのかもしれない。
僕は、少し黙ったあと。
「晴美の、その気持ちを大切にするよ。」と言った。
晴美は、無言で頷くと、僕の手を握った。
僕は、真夏の太陽の下で、男と女の間にある溝のようなものの埋め方が分からずに、晴美の手の柔らかさを感じていた。
目の前の食べかけのかき氷は、解け始めていた。
つづく
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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学