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探し物NO3


祭りの人ごみの中で、気がつくと朋子の姿を探していた。
朋子と似た後姿の女性を見かけると、人ごみを掻き分けるように急ぎ足になり、追い越しざまに女性の顔を確認する。

どれも違っていた。

偶然が毎年続く訳がないことぐらい分かっていた。
分かっていても、朋子の影を探していた。
結局、朋子に会うことも無く、何時もの喫茶店にたどり着いた。

何時もの時間が始まる。
本を読み、時折、カウンター越しに喫茶店の彼女と話をする。

「今日も、一人なの?」彼女が言う。
「いつも一人だよ。」
「友達は?」
「めんどくさい。」
「寂しくない?」
「慣れているから。」
「寂しさに?」
「一人でいることに。」
「慣れるんだ。」
「一人でいても、誰かと一緒にいても、何だか寂しさを感じる。」
「だから一人でいる?」
「同じ寂しいなら、一人の方が楽。」
「若いのに、大人びているわね。」彼女は、そういうと微笑んだ。
「早く大人に成りたい。」
「大人になんてなったって、いいことなんか無いわよ。
 あなたは、あなたの年齢でしか出来ないことをするべきじゃないかしら。」
「例えば?」
「もっと勉強をするとか。」
「教科書から学ぶことよりも、小説から学ぶことの方が多いと思う。」
「私は、どちらも読まなかったわ。
 だから、何も学んでいないのかな。」
僕は、なんと答えていいのか分からなかった。
答えに詰まった。

僕の背中越しに、ドアが開く音が聞こえカウベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。」澄ました声で彼女が言った。

僕は、背後を振り返る。
見知らぬカップルが、喫茶店に入って来た。

彼女が、また、働き始めた。

お冷とお絞りを運び、注文を聞き、コーヒーを作り始める。
僕は、彼女の動作をぼんやりと眺めていた。

『大人になんてなったって、いいことなんか無いわよ。』
彼女の声が、僕の心を何故か捉えている。

いいことってなんだろうか?
僕にとっていいことって何なんだろうか?
大人にならなくったって、いいことなんて有ったのだろうか?

一組のカップルが、入って来ると、立て続けに、お客が増えた。
彼女は、忙しそうにフロアとカウンターの中を行ったり来たりした。
僕は、取り残されたような気持ちになった。

本を読もうとしたけれど、本に集中を出来なかった。
本の中の活字は、意味のある言葉として、頭の中に入って来なかった。
僕は、本を閉じると、暫く彼女の動作を眺めていた。

彼女が、コーヒーを淹れる動作に、大人の女性を感じた。

何だか、急に落ち着かない感じになり、僕は、伝票を持って立ち上がった。
彼女は、僕に気がつくと、慌てたようにレジまで小走りにやってきた。
小さなメモ帳に、慌てて何かを書くと、お釣りと一緒に僕に渡してきた。

店を出ると、小銭をジーパンのポケットに仕舞い、手渡されたメモを見た。

”18時 横須賀中央駅改札” それだけが、走り書きされていた。

つづく
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テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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さとうそら

Author:さとうそら
2009年12月に、本を出版しました。
タイトル「春には春の花が咲く

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