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かくれんぼNO4

父親が電話に出た。
電話で話す父親の雰囲気が、いつもと違っていた。
声をひそめて何かを話していた。
瑞希と言う言葉だけが聞き取れた。
短い電話だった。
父親は、電話を切った後も、暫くの間、電話機の前でじっと黙ったまま立っていた。
僕は、何も父親に聞くことが出来なかった。
僕は、読み掛けの漫画のページを開いたまま父親の背中を見ていた。
なんだか、心が落ち着かなかった。
心の中が、なにかざわざわとした感じだった。
『瑞希に会いに行く。』父親は、振り向き僕を見ながら、静かな声で言った。

父親は、通りに出るとタクシーを拾った。
タクシーの中でも黙ったままだった。
黙ったまま、何かを祈るように顔の前で両手を合わせていた。
病院までの道程が、僕は長く感じた。
何かが起こっている。
何かが起ころうとしている。
そして、それはいいことではない。
僕の心臓は、不安の気配で締め付けられそうになっていた。

病院に着くと、廊下に置かれている長椅子に一人で座らされた。
父親と母親は、白衣を着て、気ぜわしく瑞希の病室とは違う部屋に入って行った。
重そうな鉄の扉を開けて、看護婦と一緒に、その部屋に入って行った。
僕は、廊下で一人取り残されると、さらに不安な気持ちで一杯になった。
あの、鉄の扉の向こうに瑞希がいることは、雰囲気で分かった。
僕は、病院の廊下で椅子に座ってじっと待っていた。
何かを考えることが出来なかった。
何かを考えようとしても、ただ何かわからない苦しい気持ちで心の中が一杯になった。
やがて、父親が扉から出てきた。
父親は、黙ったまま、僕に近づくと、僕の前に立ち僕の頭を撫でた。
『お前は、男の子だな。』と言った。
『うん。』
『男は、何が有っても、辛くても、女の子を支えなければならない。』
僕は、黙っていた。
『わかったな。』父親は、有無をも言わさぬ口調で、静かに強く言った。
僕は、黙って頷いた。
それは、父親は、自分で自分に言い聞かせている言葉のようにも感じられた。

重い鉄の扉の向こうに入っていくと瑞希がいた。
ベットの上で、目を閉じて、静かに眠っているように瑞希がいた。
瑞希の腕から点滴の管が伸びていた。
口は、酸素マスクのようなもので覆われていた。
酸素マスクからは、ゆっくりとした、弱々しい呼吸の音が漏れていた。
電子音が、短い間隔で部屋の中に響いていた。
母親が、取り付かれたように、瑞希の小さな身体を擦っていた。
『ここが痛いの?ここが痛いの?』と呟きながら、瑞希を擦っていた。
瑞希は、目を閉じたまま何も答えなかった。
耳に届くのは、心臓の動きを知らせる電子音だけだった。
母親は、部屋に入って来た僕を、見ることも無かった。
僕は、瑞希の枕元に、少し離れて戸惑うように立っていた。
どうして、いいのか分からなかった。
自分が、何をしていいのか、まったく分からなかった。
瑞希の顔をじっと見ていた。
父親の手が、背中を押した。
僕は、振り向き父親の顔を見た。
父親は、顔の動きだけで”もっと傍に行け”と、僕を促した。
一歩。
そして、また一歩。
瑞希に近づいた。
そして、無意識に瑞希の痩せた頬に触れた。
暖かかった。
柔らかかった。
そして、僕の心は、何故か苦しかった。
僕は、瑞希の頬を撫で続けた。

瑞希の目が一瞬開いた。
ほんの一瞬、僕と目が合った。
その時、酸素マスクの中の瑞希の小さな唇が嬉しそうに微笑んだ気がした。
瑞希は、すぐに目を閉じ、一粒の涙を流した。
瑞希の目から毀れた涙は、頬を伝い、僕の手に流れ落ちた。
そっと、その涙を拭ったとき、電子音が止まった。
何の前触れも無く、電子音が止まった。
静寂が部屋の中を支配した。
部屋の中の静寂は、すぐに母親の慟哭で壊された。

『まあだだよ。』瑞希の声が、僕の心の中に響き渡った。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

すごく胸が締め付けられました。幸せって失ったときに気づくものだと改めて感じさせてくれる、そんな作品だと思いました。

これからも頑張ってください!

Re: No title

> まどるD さん
コメントありがとう。

切ない小説になりますが、これからもよろしくお願いします!

プロフィール

さとうそら

Author:さとうそら
2009年12月に、本を出版しました。
タイトル「春には春の花が咲く

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