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春と修羅NO6

冬の動物園は、人影まばらで、どこか寂しげだった。
動物達も何だか、やる気がなさそうに、檻の中でじっと寝ていた。
僕たちは、そんな動物達を見て回った。
僕は、歩きながら、なんだか不安な気持ちを抱えていた。
朋子に近づいたと思っていた心が、少し離れてしまったようだった。
トラの檻の前で「一生をこの檻の中で過ごすのね。」と、朋子が言った。
「檻から出したら、大変なことになるから。」
「どちらが幸せなのかしら?」
「どっち?」
「飢えなくて、敵もいなくて、不自由だけど、のんびりと檻の中で暮らすのと、
 死と隣り合わせの野生の世界で、自由に暮らすのと。」
「彼らは、檻の中しか知らないから。
 野生に出たら直ぐに死んでしまう。
 きっと、餌を確保する方法すら知らない。」
「そうね。檻の中でしか、生きられないのね。」
2匹のトラは、僕たちには興味が無さそうに檻の片隅で退屈そうに寝ていた。
自由ってなんだろう? 僕は、ふっと思った。
自由に生きるとは、どういうことだろう?
僕は、いったい、どれだけ自由に生きているのだろうか?
「自由ってなんだろう?」と僕は口に出した。
「行きたい所に行けることかな?」朋子が、少し考えて言った。
「行きたいと思っても、月の裏側にはいけない。」
「そうね。」そういうと、朋子は黙って二匹のトラを見た。
「優一君って、何処まで本気で、何処から冗談か分からないこと言うのね。」
朋子は、寝そべっているトラを見ながら言った。
その言い方は、何処か戸惑っている風に僕には聞こえた。
僕の心の中の不安が、より大きくなった。
僕は、今、隣にいる朋子の言動に縛られていた。
朋子の言動で、僕の心は大きく揺らいだ。
結局、僕もこの動物たちと同じように、心の中にいくつもの檻を作って生きているような気がした。

つづく

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春と修羅NO7

僕たちは、動物園を出ると坂道を下り伊勢佐木町へと向かった。
歩行者天国の商店街を歩きながら、目に付いた蕎麦屋で遅い昼飯を食べた。
朋子はとろろ蕎麦を食べ、僕はカツ丼を食べた。
朋子は、片手で髪をかき上げながら、まるで一本一本味わう様に蕎麦を食べていた。
僕がカツ丼を食べ終えても、朋子の丼には、蕎麦が半分ほど残っていた。
タバコに火を付けると、ぼんやりと朋子を見ていた。
楽しいはずのデートなのに、僕の心は、不安で一杯だった。
朋子は、いったいどう思っているのか?
僕は、それを感じ取ることができなかった。

僕達は、蕎麦屋を出ると、買い物客で賑わっている伊勢佐木町の商店街を関内に向かって歩いた。
人ごみの中を二人並んで歩いていた。
僕は、学校の出来事を話し、好きな本や音楽について話をし、血液型や星座について話をした。
でも、僕の会話の中に家族のことは出てこなかった。

僕たちは、関内駅から横浜市役所の前を通り、日本大通へと向かった。
「この道、とても好きよ。」朋子が言った。
「何だか、ロマンチック。」僕が言った。
「とってもね。」
「広い舗道と銀杏並木。」僕は、目に見えるロマンティックなものの名前を言った。
「両側に建っているレンガ造りの建物。」朋子が言った。
「広い車道。」
「青い空。」
「風に舞う枯葉。」
「近づく海の匂い。」
「文明開化の匂い。」
「あと何かしら?」朋子が、首を左右に振りながら考えていた。
”そして、朋子が隣にいる” 僕は、その言葉が言い出せなかった。
僕たちは、日本大通を通り過ぎシルクセンターから山下公園に向かった。
海からの風が強まったような気がした。

つづく

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春と修羅NO8

僕達は、山下公園にたどり着いた。
海に面した手すりにもたれる様に、僕達は海を見ていた。
沖合いを貨物船やタンカーが、ゆっくりと進んでいった。
カモメの鳴き声の中、時折、霧笛が響いてきた。
横浜の港に沿った公園には、冬でも恋人たちで溢れていた。
恋人たちは、手を繋ぎ、腕を組み楽しそうに歩いていた。
どうしたら、朋子と手を繋げるのだろうか?
僕は、そのことを考えていた。
地面を見る振りをして、僕は、朋子の手を見た。
朋子の手は、コートのポケットの中に固く仕舞われていた。

「私、山梨で生まれ育ったの。
 山しかない小さな町だったわ。
 小さいとき、ずっと、海に憧れていたの。
 海に行きたいって、ずっと、思っていたの。
 小学校3年のときだったわ。
 家族で、初めて海に行ったの。
 伊豆の方だったと思う。
 嬉しくってね。
 ずっと、ワクワクしていた。
 お父さんが運転する車から、初めて海が見えたとき、とっても感動したの。
 何処までも広くて。
 青くて。
 太陽の光でキラキラ輝いていて。
 今でも、あの風景を覚えている。
 早く、海の水に触れたかった。
 でも、水着に着替えて、初めて海に触れたとき、とても怖かった。
 波の奥に引きずりこまれそうで。
 怖くて海に入れなかった。」
僕は、朋子の言葉を黙って聞いていた。
「中学校1年のときに、山梨から横須賀に引っ越してきたの。
 横須賀っていう言葉の響きがとても素敵で。
 素敵な街なんだろうなって思っていた。」
「素敵だった?」
「どこか、独特の雰囲気があるわ。
 でもね。
 転校をして、すぐにイジメにあったの。
 今、思うと大したイジメじゃなかったけれども、あの時の、私にとってはとてもショックだった。
 一人の男の子が、助けてくれたの。
 私をイジメた人に対して、”そういうこと、やめろよ”って一言言ってくれたの。
 それで、私は、その男の子に恋をしたの。
 ずっと片思い。
 ずっと思い続けていたの。
 告白なっんて出来なかった。
 ただ、思い続けていたの。」朋子は、懐かしそうに言った。
僕の胸の中は、今までに感じたことが無いような複雑な気持ちで一杯になった。
沖を走る船を眺め続けていた。
「高校は、別々になったの。
 だから、もう、この片思いも諦めようと思った。
 彼が、あの空手道場で空手を習っているって知ったの。
 それで、私も習い始めたの。
 とても、不順な動機。」朋子は、そういうと口元だけで笑った。
「今でもいるの?」
僕は、そう言うのが精一杯だった。
その、答えが怖かった。

つづく

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春と修羅NO9

僕は、朋子の答えを待った。
少しの間が空いた。
5秒か、10秒か、ほんの僅かな時間が僕には随分と長く感じた。
僕の周りから、風景が消え去ってしまったようだった。
朋子は、ポケットから手袋をした手を取り出すと、何かの、おまじないのように自分の両頬にあてた。
「彼は、私が入ってから、半年後には辞めちゃった。」
「なんで?」
「分からないわ。
 一言も喋ったことないんだもん。」
「そうなんだ。」
「うん。」
僕は、少し安心をした。
でも、僕の心の中に、見たことも無い彼の存在が住み着いた。
「寒くなってきたね。」朋子が言った。
吐く息の白さが色濃くなっていった。
「そうだね。」
僕は、自分の息を両手に吹きかけた。
空が少し暗くなり始めていた。
夜の闇が、間近に迫っていることを感じさせた。

僕達は、山下公園から元町を抜けて、石川町駅に出た。
元町の商店街のウィンドーには、僕とは無縁なお洒落な服やアクセサリーが並んでいた。
朋子に誘われるままに、狭い階段を上り、紅茶専門の喫茶店に入った。
僕は、この世に、紅茶専門の喫茶店が存在することすら知らなかった。
お店の中は、アンティークな木目調の雰囲気で、お洒落な感じだった。
そして、多分品のいい音楽が会話を邪魔しない程度の上品さで流れていた。
この店では、皆、上品な他人の噂話をしているように感じられた。
メニューは、僕の知らない紅茶の名前が並んでいた。
僕の知っている紅茶の名前は、リプトンと日東だけだった。
どちらも、そのメニューには存在しなかった。
なんだか、僕には落ち着かない。

「私、今月で、辞めることにしたの。」朋子が、突然に言った。
つづく

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春と修羅NO11

僕は、一人帰りの電車に乗っていた。
結局、僕は、ふられてしまったのだろうか?
それとも、ふられるとか、ふられないとか、そういった所までいっていなかったのだろうか?
自分ひとりが、恋愛気分でいたのだろうか?
よく分からなかった。
どちらにしても、僕は、朋子とデートをすることが出来ない。
来月からは、朋子と会うことも出来なくなる。
そう思うと、なんだか、悲しい気持ちでいっぱいだった。
それ以外の言葉で、自分の気持ちを表現することが出来なかった。
いったい、どうしたらいいんだろう?
考えたけれども、どうすることもできなかった。
今、僕に出来ることは、電車の中で、ぽつんと悲しい気持ちを堪えながら座っていることだけだった。
人を好きになるということが、こんなにも悲しく切ないとことだと初めて理解をした。
僕は、出来ることなら、この電車に、この思いを置き去りにしてしまいたかった。
終点の先にあるはずの、車庫の中に閉じ込めておいて欲しかった。
でも、悲しい気持ちは、僕の家の、僕の部屋にまで付いてきた。
部屋の明かりも付けずに、ヘッドフォンでビリージョエルを聴いていた。
目を閉じると、ビリージョエルの吹く口笛が、僕をより悲しくさせた。
それでも、涙は出なかった。
僕は、ただ、切なさの中に自分を浸し、朋子の最後の言葉を思い返していた。
”ごめんなさい”
瑞希もそうだった。
何故、皆、僕の前から去っていくときに”ごめんなさい”って言うのだろうか?
誰も、悪いことはしていないのに・・・
強くなりたい。
もっと、強くなりたい。
全てを包み込んで、笑っていられるぐらいに、僕は、強くなりたい。
ふと、そう思ったとき、突然、寒さが僕の身体に襲い掛かって来た。
火の気の無い部屋にいることに、初めて気が付いた。
部屋の中でも、吐く息が白かった。

つづく



今、書いている物語の主人公である、優一が39歳のときの話です。
香と優一の物語。
約束のない
愛だから
信じていたい
春には春の花が咲く春には春の花が咲く
(2009/12/01)
さとう そら

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Author:さとうそら
2009年12月に、本を出版しました。
タイトル「春には春の花が咲く

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